横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)7号 判決 1989年2月27日
原告
八尋昇
右訴訟代理人弁護士
中村文也
同
立川正雄
同
清田乃り子
被告
藤沢市
右代表者市長
葉山峻
右訴訟代理人弁護士
瀬高真成
主文
原告の請求を棄却する。
但し、被告が昭和五七年七月一五日付けでした別紙「処分の内容」記載のとおりの換地処分は違法である。
訴訟費用はこれを二分してその一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五七年七月一五日付けでした別紙処分の内容記載のとおりの換地処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は、昭和三一年八月一日、別紙物件目録C記載の土地(以下「本件従前地」という。)のうち、同目録A記載の土地に当たる部分(以下「A土地」という。)を永井ムメ(以下「ムメ」という。)から、右土地に隣接する同目録B記載の土地に当たる部分(以下「B土地」という。)を永井基司(以下「基司」という。)から、それぞれ建物所有目的で賃借している者である。
被告は、昭和三四年から藤沢都市計画藤沢駅前南部地区土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)を施行している者である。
2 本件処分
被告は、昭和五七年七月一五日、別紙処分の内容記載のとおりの換地処分(以下「本件処分」という。)を行った。
3 審査請求
原告は本件処分に関し、昭和五七年八月九日付けで神奈川県知事に審査請求を行い、昭和五八年九月二〇日審査請求を棄却する旨の裁決を受けたので、同年一〇月五日建設大臣に再審査請求を行なったが、昭和五九年一〇月二五日再審査請求を棄却する旨の裁決がなされ、原告は同月二七日右裁決を受領した。
4 本件処分の違法性
(一) 被告は、昭和三四年九月に縦覧した事業計画を変更して六六号街路(別紙図面一表示の道路、以下「本件道路」という。)を新設するについて、昭和三七年九月法律第一六一号による改正前の土地区画整理法(以下「法」という。)五五条五項所定の縦覧手続を行わず、利害関係人の意見聴取の機会を奪ったうえ本件処分を行ったものであるから、本件処分は違法である。
すなわち、
(1) 本件処分の経緯
被告は、昭和三四年に事業計画(以下「第一次事業計画」という。)を策定し、同年七月一五日に神奈川県知事に第一次事業計画を送付するとともに同年九月七日から同月二〇日までの二週間にわたって縦覧し、利害関係人から二二件の意見書の提出を受け、同年一二月七日右意見書が神奈川県都市計画審議会(現在の神奈川県都市計画地方審議会。以下「審議会」という。)に付議された。
審議会は、昭和三五年一月六日藤沢市鵠沼砥上二二一九番地と同所二二二〇番地との間の袋地をなくすためにいずれかの街路に接続する街路を設けることを求める旨の意見(以下「本件意見」という。)の他二件の意見を採択して神奈川県知事に答申し、同知事は、同月七日被告に対し、五八号街路付属私道を一号街路を除く他のいずれかの街路に接続させることを命じ(以下「本件修正命令」という。)その旨の事業計画修正命令書を送付した。
被告は、本件修正命令に従って第一次事業計画にはなかった本件道路の新設を決めたが、修正した事業計画(以下「本件修正事業計画」という。)を縦覧に供しないまま昭和三五年一月一一日付けで神奈川県知事に認可申請し、同知事は、同年二月一九日縦覧手続の欠缺を見過ごして本件修正事業計画を認可(以下「本件認可」という。)した。
そして、本件修正事業計画が昭和三五年二月二六日に公告され、昭和三七年七月に仮換地計画が縦覧に供されたが、昭和三九年(第二次)、昭和四四年七月(第三次)、昭和四六年二月(第四次)にそれぞれ事業計画を変更する事業計画(いずれも本件従前地に影響を与えるものではない。)が立てられて、それぞれ縦覧手続を経て認可され、昭和四六年五月一一日藤沢都市計画藤沢駅南部地区土地区画整理審議会から仮換地計画案が適正であるとの答申を受け、被告は原告に対し、同年一一月一四日仮換地指定処分を行い、昭和五七年七月一五日本件処分を行った。
(2) 縦覧手続欠缺の違法性
被告は昭和三四年春ころ、本件従前地を含む神奈川県藤沢市鵠沼橘地区の関係者に対し、六〇号街路と六一号街路を接続して本件従前地の南私道を閉じる計画案(以下「当初計画案」という。)を示したが、当時の関係者がこれに反対の署名を集めて陳情し右計画案は廃止された。
ところで、本件道路の新設は、右廃止された当初計画案と一部重なり合うものであり、しかも、本件道路は別紙図面一表示の所に新設されるので本件道路のうち本件従前地の西側を通る部分ではほぼすべてが本件従前地の西側部分にかかり、本件従前地の北私道に接して存した原告の門柱、門扉、両袖垣(郵便受及びこぐりの付属施設を含む。)の全部を取り去り本件従前地を大幅に削りとって原告の借地権の範囲を不当に狭めるものである(別紙図面二参照)ため、原告は本件道路の新設に反対であり、仮に本件修正事業計画が縦覧に供されていれば反対の意見書を提出するはずであった。
また、原告は昭和三五年一月下旬に「広報藤沢」で本件道路の新設を知り、他の住民と共に被告に対してその違約を責めたが、その際被告の職員は、「軽微な変更であるから縦覧手続は不要である」旨説明したものの、原告の要求で規定を調べた結果事業計画の修正に縦覧手続が必要であることが判明した。このように、被告は同年二月当時縦覧手続の欠缺を十分に認識していたにもかかわらず、これを補正する措置をとらなかった。
以上のとおり、本件修正事業計画は本件道路の新設という重大な変更であるにもかかわらず、被告が必要不可欠な縦覧手続を行わず、しかも、昭和三五年二月当時には既にその欠缺を知りながら放置して手続を進めたために原告の意見陳述の機会を奪うことになったのであって違法な手続であり、これに基づいた本件処分も違法である。
(3) 事情判決の不当性
本件道路の新設は、縦覧手続を欠缺し住民の知らないうちに計画された違法なもので、しかも住民の反対で一旦は廃止された当初計画案の再現にすぎず、仮に、本件修正事業計画が縦覧に供されていれば、これに対し住民から意見書が提出され、本件道路新設以外の方法で本件修正命令に沿う計画が立案された蓋然性が高いのである。
また、本件道路は、五八号街路と六〇号街路とをカギ型に結ぶだけの価値しかない道路であり、これによって五六、五七ブロックが不自然な形に分断され、都市計画の道路としてふさわしくなく、公益上必ずしも設ける必要のなかった道路である。
さらに、本件処分が取り消されても、原告の借地が回復されるだけで特に第三者への影響は少ないのに対し、本件処分は付近住民の総意にも反し、しかも、被告自身が縦覧手続の欠缺に気づきながらも原告の利益を保護すべき手続を採らずに違法な状態のまま手続を強行してきたのである。
以上のとおりであって、本件道路の新設は、法律上要求されている縦覧手続を欠く違法な事業計画に基づくものであり、しかも、公益上も必要なものでなく、取消されることにより第三者に与える影響も少ないから、事情判決をするのは不当である。
(二) 換地方法の違法
(1) 換地手続の経緯
換地における基準地積決定には、藤沢市条例(以下「条例」という。)一九条が適用され、事業計画認可の日から一〇日を経過した日の土地台帳地積による(一項)が、所有権以外の権利地積については届け出た地積によるものの、その地積が土地台帳と符合しないときは市長の査定した地積による(三項)。そして、所有権者は所定の期間内に実測図面を添付して土地台帳地積の訂正申告をなし、検査を求めることができ(五項)、その場合、土地台帳地積と査定地積との差が一〇〇分の四を超えるときは土地台帳地積にその超える地積を加算した地積により、一〇〇分の四未満であるときは土地台帳地積によって(六項)換地基準地積を決定することとされている。
ところで、本件従前地を含む五六ないし五八ブロックの土地は永井朝吉(以下「朝吉」という。)、ムメ及び基司(以下同人らを併せて「永井一家」という。)の所有にかかる一四筆の土地(以下「本件全体土地」という。)であるが、数十年前、永井一家がその土地を宅地造成し、私道を設けて各筆の境界とは全く無関係に借地境を定めて原告を含む一八人の借地人に貸し渡した。
原告は昭和三五年五月ころ、被告から地主の印を添えて申告するように求められ、同月三一日、条例一九条三項により基準地積決定につながるという意識なしに被告の誘導に従ってA土地につき三六坪、B土地につき一六八坪(本件従前地の面積二〇四坪)と申告した。
永井一家は昭和三五年六月地積訂正申告を行ったが、原告は、右訂正申告期間の最終日である同年六月八日を過ぎた昭和四〇年七月に永井一家の地積訂正申告の事実を知った。
本件全体土地は一四筆からなり、その台帳地積合計が5510.58平方メートルであるところ、地主の地積訂正申告により実際の面積が5933.77平方メートルであり、423.19平方メートルの縄延びが確認されたため、被告は条例一九条六項を理由として、実測面積5933.77平方メートルから台帳地積の四パーセントに当たる220.42平方メートルを差し引いた5713.45平方メートルを換地基準地積と定め、また、借地の申告面積合計5373.54平方メートルをそのまま借地の換地基準地積とし、借地の換地基準地積と本件全体土地の換地基準地積との差積339.91平方メートル(以下「本件差積」という。)を別紙図面二表示の南私道及び北私道(以下「本件私道部分」という。)に該ると判断した。
そして、被告は、借地の申告面積を減歩して四六八二平方メートルを換地し、また、本件私道部分に相当すると判断した339.91平方メートルの土地については、借地権の対象となっていない地主自用地として、約六〇パーセントの減歩率をかけて二〇八平方メートルについて換地不交付、132.29平方メートルを地主自用地として換地した。
(2) 換地基準地積算定の違法
① 換地制度は、実測面積を基準地積としてされることが原則であるから、大量処理を行う必要上基準地積として所有権において土地台帳地積、借地権において申告面積をそれぞれ採用することがやむを得ないとしても、その場合には、少なくとも権利者に地積訂正申告の機会を与えるべきであるところ、条例は土地所有者に地積訂正の申告の機会を認めながら借地権者にはこれを認めていない。
このような場合、被告が土地所有者の地積訂正申告により借地について縄延びのあることを知りえたときには、職権をもって借地の実測地積を査定すべきである。
また、原告は、本件従前地の東側部分の一部が斜面になっていて宅地として使用できない土地であったため、実際に使用できる面積分(二〇四坪)だけの賃料を支払ってきたのであって、借地部分の実測面積は、被告が縄延びを本件全体土地に按分比例して割り振った面積によっても212.02坪あり、最大で247.50坪存したことになるから、原告の申告地積二〇四坪よりも広いのである。
被告は土地所有者の地積訂正申告によって、原告の申告面積が実際の面積より少なく申告漏れ地積があることを知ったのであるから、条例一九条三項但書に基づき底地と借地面積が一致するように査定するか、あるいは土地区画整理法上の底地と借地権は不可分一体であるとの原則に従って、底地と借地面積が一致するような処分をしなければならなかったにもかかわらず、借地権者の地積訂正申告制度のない条例によって原告の借地の地積訂正申告の機会を奪ったばかりでなく、職権をもって本件従前地の実測面積を換地基準地積とすることもしなかった。
したがって、本件処分は、原告の利益保護の手続を欠いた重大な瑕疵のある処分であり違法である。
② 換地は具体的現況に即してなさなければならないところ、被告は、換地基準地積5713.45平方メートルから借地権者の申告地積5373.54平方メートルを差し引いた単なる計算上の本件差積を現況私道部分にあたると誤認したうえ、私道は申告がないから地主に換地すべき宅地であるとし、六〇パーセントに及ぶ減歩をして地主に更地を換地した。
本件差積は、所有権換地基準地積と申告漏れ地積を除いた借地権者の申告地積との単なる差積に過ぎず、現況土地の宅地、私道の区分とは無関係であって、被告は実際に本件私道部分でない土地を地主自用地に換地したものであるから、土地区画整理法八九条所定の換地における照応原則に反しており、また、仮に本件差積と実際の本件私道部分の面積が近似した面積であっても、本件差積の中には借地権者の申告漏れ地積を含む借地の一部が含まれているのであるから、本件差積を地主自用地に換地したことは借地の一部を違法に借地権者である原告から取り上げたことになる。
したがって、本件処分は、土地区画整理法八九条に反した違法な処分である。
③ 被告は、本件全体土地すべてに土地台帳地積の四パーセント以上の縄延びがあると誤認して、条例一九条六項により本件全体土地の実測面積5933.77平方メートルから土地台帳地積の四パーセントを差し引いた5713.45平方メートルを所有者に対する換地基準地積とした。
ところで、所有者に対する換地基準地積は、条例一九条六項により各筆ごとに土地台帳地積と訂正申告地積を比較して土地台帳地積の四パーセントを超える縄延びがある場合に限り、各筆ごとに実測面積に土地台帳地積の四パーセントを超える部分を加算して換地基準地積を算定することにしたものである。
しかるに、被告は、本件全体土地が一四筆から成り立っており、本件従前地が本件全体土地の中で最も縄延びがあることを無視し、実測面積を調査することなく、漫然と本件全体土地の台帳地積の四パーセントを差し引いてしまい、その結果、本件従前地の換地基準地積は条例一九条六項の規定に従う以上に少ないものとされたのである。
したがって、本件処分は、本件従前地の換地基準地積を違法に過少なものとしたうえでなされた処分であって違法である。
よって、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、A土地及びB土地の図面計測地積が690.39平方メートルであることは否認し、その余は認める。
なお、A土地及びB土地の合計面積は図上積算によれば681.58平方メートルである。
2 同2、3の各事実は認める。
3(一) 請求原因4(一)冒頭の主張は争う。
(二) 同4(一)(1)の事実中、被告が昭和三四年から事業計画を策定していたこと、本件意見の内容が藤沢市鵠沼砥上二二一九番地と同所二二二〇番地との袋地をなくすためにいずれかの街路に接続する街路を設けるものとするものであったことは否認し、その余の事実は認める。被告は昭和三三年ころから事業計画を策定していた。また、本件意見は、別紙図面二表示の南私道を一号街路まで延長するか又はいずれかの街路に接続せよというものであった。
同4(一)(2)、(3)の各事実中、本件道路の新設に関する事業計画の変更を縦覧しなかったことは認め、その余は争う。
(三) 同4(二)(1)の事実中、五六ないし五八ブロックの土地全部が永井一家の所有であったこと(但し、五六及び五八ブロックの土地の一部分である本件全体土地を永井一家が所有していたことは認める。)、原告が被告の誘導により本件従前地の借地権申告をしたことは否認し、原告が換地基準地積決定につながることを知らずに右借地権申告をしたこと、原告が地主の地積訂正の申立てを昭和四〇年七月に知ったことは知らない。その余は認める。
同4(二)(2)は争う。
三 被告の主張
1 事業計画の縦覧
(一) 手続
地方公共団体は、土地区画整理事業を施行する場合、事業計画を定めて二週間にわたって公衆の縦覧に供し、利害関係人から意見書の提出があれば、知事によって都市計画審議会に右意見書を付議し、審議会が右意見を採択するとこれに従って知事が修正命令を下し、地方公共団体はこれに基づいて事業計画を修正し、再び公衆の縦覧に供して意見書の提出を求めるのであり、右一連の手続は意見書の提出と意見の採択がなくなるまで繰り返さなければならない。
(二) 本件道路の新設
審議会が第一次事業計画について別紙図面二表示の南私道をいずれかの街路に接続せよとの意見を採択して神奈川県知事に答申し、同知事が本件修正命令を出したため、被告は、本件修正命令を受けて、本件修正事業計画を策定した。
本件修正事業計画は、南私道(幅員四メートル以下の道)を廃止し、これに代わる本件道路(六六街路、幅員四メートル以下の道路)を新設するというものであった。
被告は、昭和三五年一月一一日本件修正事業計画を縦覧手続を行わずに神奈川県知事に認可申請し、右修正事業計画は同年二月一九日に認可されて同月二六日に公告された。
(三) 縦覧手続欠缺の適法性
(1) 本件道路の新設は軽微な修正であるから縦覧手続は不要である。
すなわち、法五五条五項は、施行者が知事の命令により事業計画を修正した場合において、政令で定める軽微な修正であれば縦覧手続を要しない旨を規定しており、昭和三七年九月二九日政令第三九一号による改正前の土地区画整理法施行令(以下「政令」という。)四条一項二号は「幅員四メートル以下の道路の廃止又は当該道路に代わるべき道路で幅員四メートル以下のものの新設」を軽微な修正と定めている。
そうすると、本件道路は別紙図面二表示の南私道に代わる道路として新設されたものであり、しかも、南私道及び本件道路はいずれも幅員四メートル以下の道路であるから、縦覧手続が不要な場合に該当する。
したがって、本件道路の新設に関して縦覧手続を行わなかったことをもって、本件処分を違法とすることはできない。
(2) 仮に、本件修正事業計画に縦覧手続を欠いたまま認可された瑕疵があるとしても、その後三回にわたって事業計画の変更がなされ、その度に当該変更部分のみならず事業計画全体の縦覧手続が行われているから、原告には意見書を提出する機会があったのであり、縦覧手続の欠缺は実質的に填補されている。
すなわち、第一次事業計画は、本件修正事業計画が認可された後である昭和三九年、昭和四四年七月、昭和四六年二月にそれぞれ変更が加えられ、それぞれ事業計画変更案の縦覧手続が行われており、また、右縦覧手続においては、当該変更にかかる部分に限らず事業計画全体の内容が縦覧に供され、しかも、意見書の提出は法律上当該変更事項に限られているわけではないから、本件事業計画全体について意見書が提出できたのである。
そうすると、原告は、本件修正事業計画の縦覧手続欠缺により本件道路の新設を知り得ず、意見書の提出が不可能であったとしても、その後の事業計画の変更手続により実質的には本件修正事業計画についての縦覧手続もなされ、意見書提出の機会があったのである。
したがって、本件修正事業計画の縦覧手続の欠缺が違法とはいえないから、本件処分も違法ではない。
(3) 仮に本件修正事業計画に縦覧手続の欠缺が違法であることから本件処分が違法であるとしても、本件処分を取消すことになれば、換地計画全体の修正を余儀なくされ、既に換地上に形成された多数の第三者間の法律関係及び事実関係を覆滅し去ることになって公の利益に著しい障害を生じるのであり、他方、原告は、本件処分により利益を受けることはあっても損害を被ることはないのであるから、行政事件訴訟法三一条により事情判決をすべきである。
すなわち、本件従前地は、別紙図面三表示の、、、、、、、、、、の各点を直線で結んで囲まれた部分であって、公道に接した土地ではなく、同図面表示のとおり西側の幅員1.8メートルの公道から二本の私道(北私道と南私道)が東側に向かって延びており、右私道と本件従前地とがつながっていることから公道への出入りが可能となっていた。
ところで、右私道は、土地区画整理事業において、公共施設の用に供されている国又は地方公共団体の所有する土地ではないから宅地として換地対象となるのであって、私道として計画されることはなく、その結果、本件従前地は公道と接しない島地(盲地)となる。
そこで、本件従前地が公道に接するように換地するには、別紙図面三表示のとおり、建築基準法四三条一項所定の接道義務を充たすために最低でも幅員二メートル、長さ一二メートルの専用道路を必要とし、さらに、原告が新築したように既設の建物の南側に一棟の建物を新築しようとすれば、新築建物のためにも専用道路が建築基準法上必要となり、そのために同図面表示の、、、、、、、、の各点を直線で結んで囲まれた土地を必要とすることになるが、右各用地を確保するためには、少なくとも本件従前地の北側隣接換地の一部(同図面表示の、、、、、の各点を直線で結んで囲まれた部分)の借地権等を取得しなければならず、それは極めて困難なことである。
そのうえ、原告は、右専用通路部分に上下水道、ガス等の引込設備を設ける工事費用及び維持管理費用を負担しなければならず、その金額は高額になることが考えられるのである。
これに対し、本件従前地は、本件処分により間口の広い(街路に接する距離が長い)整形の土地として換地され、専用通路を必要とせずに三棟以上の建物が接道義務に反することなく建てられ、しかも、専用通路部分に上下水道、ガス等の引込設備を設ける必要もなく、その費用を負担することもなくなったのである。
そして、本件処分により設けられた本件道路は、交通空間を確保することになり、宅地を中心とした日常通行を極めて機能的にし、緊急時の避難、救援活動を容易にし沿道地の利用効能を著しく向上させ、また、日常生活に不可欠な上下水道、電気、ガス等の供給・処理施設の収容スペースを提供し、さらに、住環境上も公共空間を提供することになり、建物棟間隔の確保による日照・通風の便宜を与え、延焼防止等の役割さえ果たすのである。
以上のとおり、本件処分は、本件従前地の利用度を増すものであり、原告に不利益を与えないばかりでなく、むしろ、本件処分を取り消すことにより原告は多大な損害を被るのであって、仮に本件処分に軽微な手続違反があるとしても、公益を考慮すれば事情判決により原告の請求を棄却すべきである。
2 換地方法の適法性
(一) 本件土地区画整理事業の概要
本件区画整理事業は、旧国鉄東海道本線の藤沢駅前地区を対象にして昭和三五年に事業に着手して以来二二年にわたる歳月と五〇億円の巨費を投じて昭和五七年八月二八日換地処分の公告を経て完成した事業である。
右事業の施行面積は、約54.78ヘクタール、東西約七〇〇メートル、南北約九〇〇メートルの広範な地区内にあって、施行前の土地筆数が一九三九筆、所有権者一三九一名、借地権者五六六名に及ぶ大規模な土地区画整理事業であった。
施行地区内には駅前広場八四〇〇平方メートルを設定し、これに接続する藤沢鎌倉線(幅員一六ないし一八メートル)、藤沢駅鵠沼海岸線(幅員二一ないし二八メートル)の各道路と区域を縦横に貫く二本の都市計画街路を中心に都市生活に必要な区画街路を有機的に連係させるとともに公園を配した計画であった。そのために地区内における公共用地の割合は、施行前の11.12パーセントから29.34パーセントと約2.64倍に増え、その増加分は公共減歩によりまかなわれた。
また、保留地地積は一万三五九四平方メートルであり、これの売却によって五〇億円の総事業費のほぼ半額にあたる二四億一七三一万三〇〇〇円がまかなわれた。
(二) 本件処分の経緯
(1) 被告代表者市長は土地台帳の調査により判明した施行区域内の土地所有者に対し、昭和三五年五月七日付けで「藤沢駅前南部地区土地区画整理事業区域内の土地台帳地積の訂正申立及び諸権利に関する異動の届出について(通知)」と題する文書を配布して、借地をしている者はその権利を申告するように通知した。
借地権者は、右通知により藤沢市役所を訪れて届出用紙を受取り、その際担当者から申告書の記載方法とともにこの申告による地積に基づいて換地がなされることを説明された。
(2) 被告の担当者は、本件全体土地の借地人から、借地が数筆の土地にまたがっているために借地の面積は分かっているものの各筆別の借地面積が判明しないのでどうしたらよいかとの相談を受けたので、永井一家からの借地人一八名から各自の借地面積を届け出て貰い、その面積に基づいて土地台帳地積、現況及び公図を照合して、各借地権者の借地面積を各筆に割り振る作業を行い、借地権者の了解を得たうえ、地主の承諾のもとにその面積によって借地権申告を受けることにした。
原告は、自己の借地二〇四坪が二筆の土地にまたがっているため、被告が割り振った面積に従って、藤沢市鵠沼字砥上二二一九番二につき三六坪、同所二二二一番一につき一六八坪と借地権申告書に記入したうえ、地主と連署して申告期間である昭和三五年五月三一日に右借地権申告書を被告に提出して申告した。
なお、原告の先代は弁護士であったが、本件従前地を借り受けるについて、昭和三一年八月一日右土地の所有者であった永井吉五郎との間において、賃貸借物件を藤沢市鵠沼字砥上二二一七番の一三(一〇二坪八合)、同番地の一四(一〇一坪五合)と表示した土地賃貸借契約公正証書を作成しているのであり、右公正証書によれば、原告の借地面積は二〇四坪三合となるのである。
(三) 原告の主張に対する反論
(1) 原告は、借地権者が条例に基づいて地積訂正の申立ができないことになっているのであるから、所有者の地積訂正申立により借地の縄延びを知り得たときには職権をもって借地を実測するか又は底地と借地の面積を一致させるように処分しなければならないにもかかわらず、被告が原告の申告地積を基準に本件処分を行ったから、本件処分が違法である旨主張する。
しかし、土地区画整理法八五条三項は借地権の変更申立の制度を設けており、条例一九条三項も右規定を前提に規定しているのであるから、借地面積の訂正申立ができないとはいえず、右規定を誤解した原告の主張はその前提を欠き失当である。
また、原告は、被告に借地を実測する義務があるかのような主張をするが、広範な地域における大量な筆数の土地と多数の地権者の関係する事業にあって、施行者が一筆ごとに実測することは期間と費用の点からして不可能であって、借地権者については申告地積を基準に換地することが法律上も許されているのであるから、原告の右主張はその点からしても失当である。
(2) 原告は、被告が本件差積を本件私道部分と誤認して地主自用地として換地したことは換地照応原則に反して違法である旨主張する。
しかし、被告は、本件差積が本件私道部分にあたるとしているものではなく、次に述べるとおり、本件差積と申告借地面積の合計面積が所有者に対する換地基準地積に含まれていると主張しているに過ぎないのであって、原告の誤解に基づく右主張は失当である。
すなわち、本件全体土地の土地台帳地積は①5510.58平方メートルであるところ、永井一家から所有面積が②5933.77平方メートルであると地積訂正申告がなされた。そこで、被告は、条例一九条六項に基づき右訂正申告地積から土地台帳地積の四パーセント相当の地積を控除した③5713.45平方メートルを所有者に対する換地基準地積とした。
本件全体土地の借地権者らは合計④5373.54平方メートルを借地面積であると申告し、原告はそのうちの⑤674.38平方メートルを借地面積として申告した。
なお、本件私道部分の実測面積は⑥346.89平方メートルであるから、永井一家の訂正申告した面積から本件私道部分面積を控除した⑦5586.88平方メートルが借地面積となる。
そうすると、借地面積には、次に算定するとおり、⑧213.34平方メートルの縄延びがあることになる。
5933.77(②の面積)−346.89(⑥の面積)−5373.54(④の面積)−213.34
そこで、被告は、原告の申告した借地面積(674.38平方メートル)を換地基準地積とし、また、精算金算定の基準地積については、次のとおり、縄延び分の右⑥の面積を各借地に割り振った701.17平方メートルとした。
674.38(①の面積)×(5586.88(⑦の面積)÷5373.54(④の面積))=701.17
なお、原告の申告した借地面積は二〇四坪(674.38平方メートル)であるが、原告が右申告時に現実に占有使用していた借地面積は206.18坪(681.58平方メートル)である。
(3) 原告は、被告が本件全体土地すべてに土地台帳地積の四パーセント以上の縄延びがあると誤認して、本件全体土地の実測地積から土地台帳地積の四パーセントを控除して所有者に対する換地基準地積としたが、本件全体土地は一四筆から成り立っており、各筆を実測して土地台帳地積の四パーセント以上の縄延びがあることを確認しなかったことが違法である旨主張する。
しかし、本件全体土地は、永井一家が原告を含めた一八名の借地権者に対して各筆の境界により画することなく賃貸している土地であり、条例一九条五項の「その家族の所有宅地が連けいするとき」に該当し、かつ、同条六項により土地台帳地積をもって換地基準地積とする場合との均衡を保つために地積訂正申告のあった面積につき土地台帳地積の四パーセントを差し引いたのであり、なんら違法なものではない。
四 被告の主張に対する認否
1(一) 被告の主張1(一)、(二)の各事実は認める。
(二) 同1(三)(1)は争う。本件道路の新設は政令四条一項二号に該当せず、縦覧手続を要する修正である。
同1(三)(2)の事実中、被告が昭和三九年、昭和四四年七月、昭和四六年二月にそれぞれ事業計画を変更し、それを縦覧したことは認め、その余は争う。事業計画が変更されて縦覧された場合、意見書を提出できるのは変更された事項に限られるのであって、変更事項と異なる事項に関する意見書の提出は失当として内容を審査せずに門前払いされるのであり、このことは、原告が昭和四四年三月一九日、第三次修正に関する縦覧手続の機会を利用して、本件道路の削除を求める意見書を提出したが、神奈川県知事は昭和四四年五月二八日付けで縦覧部分の計画変更に関するものではないとして門前払いしたことからも明らかである。
同1(三)(3)は争う。本件修正事業計画以前の事業計画案では、本件従前地の換地がほぼ整形地であり、しかも、幅員四メートルの六〇号街路に接していたのであるから、被告の主張するように原告が接道義務を果たすために多大な損害を被ることはなかった。
2(一) 被告の主張2(一)の事実は知らない。
(二) 同2(二)(1)の事実中、被告が「藤沢駅前南部地区土地区画整理事業区域内の土地台帳地積の訂正申立及び諸権利に関する異動の届出について(通知)」と題する文書を配布したことは知らず、その余は否認する。
同2(二)(2)の事実中、被告の職員が本件全体土地の借地面積を各筆に割り振る作業を行ったこと、原告が借地面積を二〇四坪とする借地権申告書を被告に提出したこと、原告の先代が本件従前地の土地賃貸借契約公正証書を作成したことは認め、被告が本件全体土地の借地権者から右割り振った面積について承諾を得たことは否認し、その余は知らない。
(三) 同2(三)(1)は争う。土地区画整理法八五条三項は、申告後に借地権の内容が変更した場合や借地権が消滅した場合を規定しているのであって、地主の地積訂正申告により縄延びの存在が明らかになり、必然的に借地面積も申告地積より増加したが、借地権者が知り得なかった場合を規定しているものではない。
同2(三)(2)の事実中、本件全体土地の土地台帳地積が5510.58平方メートルであること、永井一家が所有地積を5933.77平方メートルと地積訂正したこと、被告が5713.45平方メートルを所有者に対する換地基準地積としたこと、本件全体土地の借地権者の申告借地面積が5373.54平方メートルであること、原告が674.38平方メートルを借地面積と申告したこと、本件私道部分面積が346.89平方メートルであること、借地面積に213.34平方メートルの縄延びがあったこと、被告が原告の申告借地面積を換地基準地積とし、701.17平方メートルを精算金基準地積としたことは認め、その余は争う。
被告の主張2(三)(3)は争う。条例一九条五項は、「家族の所有宅地が連けいするときは、その全部について申告しなければならない」と規定するのみであり、基準地積の決定を一括して行うことを要求しておらず、また、同条六項は、「全体土地」の場合に土地台帳地積の四パーセントを差し引くことを規定していない。
第三 証拠の提出関係<省略>
理由
一請求原因1(当事者、但し、A及びBの各土地の図面計測地積を除く。)、2(本件処分)及び3(審査請求)の各事実は当事者間に争いがない。
二本件処分の違法性の有無について判断する。
1 争いのない事実
(一) 被告は、本件区画整理事業に関して第一次事業計画を策定して、昭和三四年七月一五日に神奈川県知事に送付すると共に同年九月七日から同月二〇日まで二週間にわたって縦覧したところ、利害関係人から右事業計画について二二件の意見書が提出され、同年一二月七日に審議会に付議された(請求原因4(一)(1))。
(二) 審議会は、昭和三五年一月六日別紙図面二表示の南私道をいずれかの街路に接続せよとの意見を含めて三件の意見を採択して同知事に答申し、神奈川県知事は、右答申を受けて同月七日被告に対し、五八号街路付属私道をいずれかの街路に接続させるべきことを内容とする本件修正命令を出した(請求原因4(一)(1)、被告の主張1(二))。
(三) 被告は、本件修正命令に従って第一次事業計画を修正し、本件道路の新設等を内容とする本件修正事業計画を策定して、縦覧手続を行わないまま昭和三五年一月一一日付けで神奈川県知事に認可申請を行い、同年二月一九日認可を得て同月二六日に公告した。また、昭和三七年七月に仮換地計画を立てて縦覧に供したが、昭和三九年(第二次)、昭和四四年七月(第三次)、昭和四六年二月(第四次)にそれぞれ事業計画を変更し、縦覧手続を経て認可を受け、昭和四六年五月一一日藤沢都市計画藤沢駅南部地区土地区画整理審議会から仮換地計画案が適正であるとの答申を受けて、同年一一月一四日に原告に仮換地指定処分を、昭和五七年七月一五日に本件処分をそれぞれ行った(請求原因4(一)(1)、被告の主張1(二)、同1(三)(2))。
(四) 永井一家は本件全体土地(但し、五六及び五八ブロックについては全てではない。)を所有し、数十年前に右土地に私道を設けた宅地造成を行って各筆の境界とは無関係に借地境を定めて原告を含む一八名に賃貸していた(請求原因4(二)(1))。
(五) 原告は、被告から求められて、昭和三五年五月三一日、本件従前地の面積を674.38平方メートル(A土地につき三六坪、B土地につき一六八坪)とする借地権申告をした(請求原因4(二)(1)、被告の主張2(二)(2))。
(六) 永井一家は被告に対し、本件全体土地の土地台帳地積5510.58平方メートルにつき、昭和三五年六月、本件全体土地の実測面積が5933.77平方メートルであると地積訂正申告をした(請求原因4(二)(1)、被告の主張2(三)(2))。
(七) 被告は、本件全体土地の所有者に対する換地基準地積を地積訂正申告のあった5933.77平方メートルから土地台帳地積の四パーセントを控除した5713.45平方メートルとし、原告に対する換地基準地積を申告のあった674.38平方メートル、精算金基準地積を701.17平方メートルとした(被告の主張2(三)(2))。
2 右争いのない事実に加えて、<証拠>を総合すると以下のとおり認められる。
(一) 本件区画整理事業の概要
藤沢駅前南部地区は、藤沢市の中心地であるにもかかわらず自然発生のまま発展したため無秩序な市街化が進み、駅を中心とする交通が混乱を極め都市機能が麻痺した状況にあった。
そこで、被告は、昭和三二年に総合都市計画を立てて本件区画整理事業に着手し、藤沢市議会も昭和三四年三月二七日に藤沢都市計画藤沢駅前南部地区土地区画整理事業に関する条例(乙第一号証)を制定した。
被告は、昭和三五年二月一九日、本件区画整理事業の事業認可を得て、総事業費五〇億円をかけ一六万坪に及ぶ土地を区画整理し、駅前広場八四〇〇平方メートルの設定、これに接続する藤沢鎌倉線(幅員一六ないし一八メートル)、藤沢駅鵠沼海岸線(幅員二一ないし二八メートル)及び区域を縦横に貫く二本の都市計画街路の建設、各住区に公園を配する等の区画整理事業を行って各宅地の利用増進を図った。
本件区画整理事業は、平均減歩率21.1パーセントであり、これにより整理前の公共用地の比率13.18パーセントが31.3パーセント(道路比率7.28パーセントが20.89パーセントに、広場の比率0.08パーセントが1.55パーセントに、公園緑地の比率〇パーセントが3.34パーセントにそれぞれ増えた。)に増加した(乙第五号証)。
(二) 本件区画整理事業の経緯
被告は、昭和三四年二月ころ、当初計画案を策定し、原告を含む住民に説明したところ、右計画案が、別紙図面一表示の六〇号街路と六一号街路を南北に結ぶ道路を本件従前地の西側に建設する内容のもの(甲第一六号証、乙第二六号証)であったため、住民の反対により右計画案は廃案となった。
そこで、被告は、別紙図面二表示の南私道を残し六〇号街路と六一号街路を結ぶ道路の建設を取り止める内容の第一次事業計画(乙第二七号証)を策定し、昭和三四年七月一五日、右事業計画の認可申請を神奈川県知事に対して行い、また、同年九月七日から同月二〇日まで二週間にわたって縦覧に供した。
神奈川県知事は、利害関係人から第一次事業計画について二二件の意見書が提出されたため、審議会に右意見書を付議したところ、審議会は昭和三五年一月六日別紙図面二表示の南私道をいずれかの街路に接続せよとの意見を採択して同知事に答申したため、同知事が被告に対し、同月七日、五八号街路付属の私道を一号街路を除く他のいずれかの街路に接続させること、四八号街路と五三号街路との交差点を正十字形にすること、五九号街路と五八号街路を接続させることを内容とする本件修正命令を出した。
被告は、本件修正命令に従って別紙図面一表示のとおり五七ブロックの南側及び東側を通る本件道路を建設することを内容とする本件修正事業計画(乙第三号証、第二八号証)を策定して神奈川県と協議したところ、右修正事業計画は軽微な変更であるから縦覧を要しないとの回答を得て、昭和三五年一月一一日付けで神奈川県知事に認可申請し、同年二月一九日に右修正事業計画が認可され、同年二月二六日に公告された。
その後、被告は、仮換地設計案を策定して昭和三七年七月二〇日から同年八月九日まで任意縦覧したところ、原告は同月九日意見書(甲第一九号証)を提出した。
右意見書は、本件道路の新設に縦覧手続がなされていないことを指摘したうえ、本件道路の設置位置を西側に移動させて本件従前地にあまりかからないようにし、本件道路の負担を公平にするように利害を調整して欲しいこと及び本件道路の新設により原告所有建物の改修、水道栓、水道メーター、下水枡、浄化設備、庭木、庭石の移動が必要となるのでその費用を補償して欲しいこと等を内容とするものであった。
これに対し、被告代表者市長は、昭和四六年一一月四日審議会において右意見書記載の内容を検討したところに基づいて原告所有建物の改修等の費用については補償基準に従って補償するが、その他の意見は特に理由がない旨の回答をした(甲第二〇号証)。
被告は、昭和三九年、昭和四四年、昭和四六年、昭和四七年、昭和五〇年、昭和五一年及び昭和五七年にそれぞれ修正事業計画を変更し、縦覧手続を行って事業計画変更の認可を受けた。
原告は、昭和四四年において事業計画変更(第三次修正)がなされた際、修正事業計画を縦覧しなかったから無効であると主張したうえ、本件道路は必要性も有用性もないから事業計画から削除して欲しい旨の同年三月一七日付け意見書(甲第一号証)を提出し、神奈川県知事はこれを審議会に付議したが第三次修正にかかる部分に対する意見ではないから採択しない旨議決された。そこで同知事は同年五月二八日付けの文書(甲第二号証)によりその旨通知した。
被告は、昭和四六年五月一一日藤沢都市計画藤沢駅南部地区土地区画整理審議会から仮換地計画案が適正であるとの答申を受けて、同年一一月一四日原告に対して仮換地指定処分を行い、昭和五七年五月二五日から同年六月七日まで換地計画を縦覧に供したうえ同月二九日に換地計画の認可申請を行い、同年七月九日に換地計画の認可を受け、同月一五日原告に対して本件処分を行い、同年八月二八日換地処分の公告を行った。
(三) 本件全体土地及び本件従前地の状況
本件全体土地(五六ないし五八ブロック周辺)は、永井吉五郎の所有する藤沢市鵠沼字砥上二二一七番一、二、同所二二一八番一、二、同所二二一九番一、二、同所二二二〇番一ないし六、同所二二二一番一、二の合計一四筆に及ぶ土地であり、昭和一七、八年ころ、宅地造成して一八名に賃貸したが、右各土地の筆境とは無関係に借地権境を設けて賃貸したため各借地は二筆以上の土地にまたがっていた。
その後、永井一家が本件全体土地を取得した。その内訳は、朝吉が藤沢市鵠沼字砥上二二一七番一、同所二二一九番一、同所二二二〇番四、五の各土地を、ムメが同所二二一七番二、同所二二一八番二、同所二二一九番二、同所二二二〇番一ないし三、六、同所二二二一番二の各土地を、基司が同所二二一八番一、同所二二二一番一の各土地を所有するものであるが、永井一家はいずれも同一住所に居住する家族である。
本件全体土地の実測面積は5933.77平方メートルであり、土地台帳地積の合計5510.58平方メートルよりも広く、また、本件全体土地の中には借地権の申告のなかった私道部分(実測面積346.89平方メートル)が含まれていた。
本件従前地は、別紙図面二表示のとおり、公道に面しない土地であるものの南私道及び北私道によって公道に出入りすることが可能であり、また、本件従前地の東側は急斜面になっていて稜線に沿って松の木が生えており、さらに、同図面表示のとおり、本件従前地の北側には、昭和一八年ころからほぼ東西にわたって建物が建てられていた。
原告の父八尋伊三は、昭和三一年六月七日佐護直司から藤沢市鵠沼橘一丁目一六番二二(本件処分前の表示―藤沢市鵠沼字砥上二二一九番地)所在の木造瓦葺平屋建の建物(乙第一〇号証、以下「本件建物」という。)及び本件建物に付随する借地権(面積―二〇四坪三合)を二〇七万円で買い受け、その旨の建物売買契約書(甲第一四号証)を作成し、また、同年八月一日本件建物の所在する土地の所有者であった永井吉五郎から本件建物所有目的で本件従前地を借り受け、同年一〇月三一日同人との間において、賃貸物件を藤沢市鵠沼字砥上二二一七番の一三(一〇二坪八合)及び同所二二一七番の一四(一〇一坪五合)と表示した土地賃貸借契約公正証書(甲第一五号証)を作成したが、八尋伊三は昭和三三年九月一二日に死亡したため、原告が本件建物及び本件従前地の借地権を相続して借地面積二〇四坪三合に相当する借地料を地主に支払ってきた。
(四) 本件全体土地の換地手続
被告は、本件区画整理事業施行区域内の所有者等に対する説明会への出席を求める知らせを昭和三四年二月一〇日付け「広報藤沢」に掲載し、同月一二日に右説明会を開催したうえ、町内ごとにも説明会を開催し、さらに、本件区画整理事業の施行地区にあたる土地所有者等に地積訂正等の申告をさせるため、「藤沢駅南部地区土地区画整理区域内の土地台帳地積の訂正申告及び諸権利に関する異動の届出について(通知)」と題する昭和三五年五月七日付け文書(乙第四号証)を町内会を通じて配布したうえ、土地所有者に対して借地権者に借地権申告をするように周知方を依頼した。
右文書(乙第四号証)には、実測面積が土地台帳地積よりも四パーセント以上広い場合に地積訂正の申告をすれば被告の査定のうえで区画整理前の地積として認めること、右訂正申告には実測図(縮尺三〇〇分の一)と隣地境界承諾書が必要であること、その他権利に異動があれば届出ること、届出用紙は被告の建設部都市建設事務所区画整理係に用意してあり、不明の点があれば都市建設事務所に相談して欲しいこと等が記載されていた。
本件全体土地は、永井一家三名が所有する土地であるが、その境界は必ずしも明らかでないうえ、土地境界と無関係に賃貸していたために借地権境と筆境が一致しておらず、借地権者一八名(但し、本多裕ほか三名は共同して賃借していたが、一名と数えることにした。)の各借地が数筆の土地にまたがっており、借地権者が借地権の申告を行うことが困難であった。
そこで、永井一家の者が被告に対し、右状況を説明して相談したところ、被告の職員は、永井一家から借地人別の借地面積一覧表を提出させ、その面積を基準にして現況図及び公図により各借地の地番及び面積を特定した一覧表(以下「振り分け一覧表」という。)を作成し、所有者である永井一家の者に渡した。
本件全体土地の借地人らは、振り分け一覧表に従って借地の地番及び面積を記載した借地権申告書に地主と借地人双方が実印を押捺し、印鑑証明書を添付して借地権申告を行った。
原告は昭和三五年五月三一日、右同様に振り分け一覧表に従って本件従前地が基司所有の藤沢市鵠沼東花立二二二一番一の土地のうち一六八坪とムメ所有の同所二二一九番二の土地のうち三六坪に該当し、借地面積が合計204.3坪になる旨記載した借地権申告書(乙第二号証の一、二)に基司及びムメと共に署名捺印して被告に提出した。
永井一家は、本件全体土地の借地権者らが借地権申告を行った後である昭和三五年六月ころ、朝吉所有の藤沢市鵠沼字砥上二二一七番一、同所二二一九番一、同所二二二〇番四、五の各土地の合計実測面積が土地台帳地積よりも四パーセント以上広い1626.51平方メートル、ムメ所有の同所二二一七番二、同所二二一八番二、同所二二一九番二、同所二二二〇番一ないし三、六、二二二一番二の各土地の合計実測面積が同じく1742.84平方メートル、基司所有の同所二二一八番一、同所二二二一番一の各土地の合計実測面積が同じく2564.42平方メートルである旨の地積訂正の申立てを行い(甲第二一、第二二号証)、被告がこれを査定して本件全体土地の合計面積を5933.77平方メートルと確定した。
そこで、被告は、本件全体土地の所有者(永井一家)に対する換地基準地積を右実測面積5933.77平方メートルから土地台帳地積5510.58平方メートルの四パーセントを控除した5713.45平方メートルとし、また、本件全体土地の各借地権者に対する換地基準地積を各借地権者の申告した面積(合計面積が5373.54平方メートル、本件従前地が674.38平方メートル)とし、さらに、右所有者換地基準地積と借地権者換地基準地積との差積339.91平方メートルを地主自用地として、朝吉に14.54平方メートル、ムメに131.76平方メートル、基司に193.61平方メートルをそれぞれ換地基準地積として割り当て換地した。
また、被告は、本件全体土地の精算時基準地積として実測面積である5933.77平方メートルにより計算することにしたが、各筆ごとの境界が不明なために各筆ごとの実測面積と土地台帳地積との相違が判然とせず、そのため、本件全体土地の借地権申告面積に対する実測面積から本件私道部分面積346.89平方メートルを控除した面積の比率、すなわち、5586.88平方メートルを5373.54平方メートルで除した1.03973を各借地申告面積に乗じて各借地権等の精算基準地積を算定することとし、その結果、本件従前地の精算時基準地積は701.17平方メートル、本件私道の精算金算定基準地積は346.89平方メートル(朝吉が14.54平方メートル、ムメが134.57平方メートル、基司が197.78平方メートルである。)となり、これに基づいて精算金の算定をした(甲第二四号証)。
被告は原告に対し、右各基準換地地積により本件処分を行ったが、その結果、本件従前地のうち藤沢市鵠沼字砥上二二一九番二の宅地の一部119.01平方メートルが99.34平方メートルに(減歩率19.8パーセント)、同所二二二一番一の宅地の一部553.37平方メートルが465.58平方メートルに(減歩率18.8パーセント)なった。
被告は永井一家に対し、本件全体土地のうちの本件私道部分346.89平方メートルについて一部不換地としたうえ132.29平方メートルを地主自用地として換地した(この事実は当事者間に争いがない。)。
(五) 本件処分後の状況
原告は、本件建物が本件道路の敷地にかかるため、昭和五二年一一月一九日被告から本件建物及び樹木等の損失補償金、移転料及び立退料二三三〇万七一二〇円を受領して本件建物の移転を承諾して、その旨の承諾書(乙第七号証の一ないし五)を作成し、また、昭和五三年三月八日被告から工作物の移転料、損失補償金二八万六〇〇四円を受領して工作物の移転を承諾し、その旨の承諾書(乙第八号証)を作成し、さらに、同月二四日被告から工作物の移転料三万九〇〇〇円を受領して工作物の移転を承諾し、その旨の承諾書(乙第九号証)を作成した。
原告は、昭和五三年五月二二日本件建物の南側に軽量鉄骨造瓦葺二階建て居宅を新築し、同月三一日登記手続を了した(乙第一一号証)。
本件従前地は、本件処分後西側の一部分が本件道路敷地となったが、右道路に沿ってブロック基礎の塀及び生垣が築かれ、本件建物と新築建物の二棟が建っている。
本件道路は幅員四メートルの公道であり、自動車の交通が可能であるばかりでなく、水道管も埋設されており、また、平井正次、金子則雄、庄司豊五郎及び原告の各借地は、別紙図面二表示のとおり、本件道路以外の公道に面しておらず、本件道路は、右各借地の住民にとって、交通の便宜のみならず、水道設備の設置場所、日照、通風の便をも果たし、かつ、緊急時における避難路または消火活動、救急活動等の役割にも貢献するものである。
以上のとおり認められ、これを覆すに足る証拠はない。
3 縦覧手続の欠缺
原告は、修正事業計画が縦覧手続を経ないまま認可されて本件処分がなされたから、本件処分が違法である旨主張するので、前項において認定した事実を前提としてその点について判断する。
(一) 区画整理事業における事業計画は、施行地区、設計、資金計画からなっており(法六条一項)、市街地造成の基本方針を定め事業を具体化するものであるから、事業計画の決定にあたってはこれを公衆の縦覧に供して利害関係を有する者の意見を反映させ、かつ、事業計画の適正を図る必要があり、法五五条五項は、政令で定める軽微な修正を除き、同条四項所定の都道府県知事の修正命令に従って修正した場合にも縦覧手続を要する旨規定している。
ところで、政令四条一項二号は、「幅員四メートル以下の道路の廃止又は当該道路に代わるべき道路で幅員四メートル以下のものの新設」を法五五条五項所定の軽微な修正と定めているが、事業計画及び縦覧手続の重要性に照らすと、事業計画の変更において縦覧手続を省略できる場合は厳格に解さなければならない。
被告は、本件区画整理事業において、神奈川県知事の本件修正命令に従って本件道路の新設等を内容とする本件修正事業計画を策定し、縦覧手続を経ないまま認可申請を行って認可を受けたのであるが、本件道路は、幅員四メートル以下の道路の廃止に伴って代わりに新設された道路ではないから、政令四条一項二号に該当せず、その他縦覧手続を要しないとする法的根拠はない。
もっとも、第一次事業計画には、別紙図面二表示の南私道がそのまま存置される計画であり、本件道路はこれに代わるものとして計画されたに過ぎないのであるが、本件道路は右南私道に重なり合う部分だけではなく、本件従前地の西側をも敷地として六〇号街路に接続する道路であり、少なくとも本件従前地の西側部分においては廃止する道路に代わって新設するものではないのであるから、政令四条一項二号に定める軽微な修正とはいえない。
したがって、修正事業計画は縦覧に供する必要があったというべきである。
(二) 被告は、修正事業計画が認可された後に三回にわたって変更され、その都度縦覧されたうえで認可されており、原告を含む利害関係人が意見書を提出する機会があったから、実質的には修正事業計画の縦覧手続が補填されている旨主張する。
しかし、法五五条七項が、「公告があるまでは事業計画をもって第三者に対抗することができない」と規定し、同条九項が「変更の認可をした場合の公告に」同条七項を準用していることからも明らかなとおり、事業計画の変更は、既に認可され公告されて確定した事業計画を前提にして行う手続であり、事業計画中の変更されない部分については確定したものと取り扱うのである。
なお、法五五条九項は同条一ないし五項を準用しているが、その趣旨は、同条九項が、同条六項を準用するについて「事業計画を変更した場合」に、また、同条七項を準用するについて「変更の認可をした場合」にそれぞれ準用すると規定していることからも明らかなとおり、変更事項及びこれと関連する事項についてのみ同条一ないし五項の手続を行うものと解され、変更事項となんら関わらない、既に確定した事項についてまで、再び意見書の提出、都市計画審議会への付議、都道府県知事の修正命令、事業計画の修正等といった手続を繰り返させることまで要求しているとは解し得ないのである。
したがって、事業計画の変更手続においては、既に認可されて公告された事業計画のうち変更事項に全く関連しない事項についての意見書提出は許されておらず、修正事業計画に変更手続がなされてその手続において縦覧されているとしても、本件道路の新設が右変更事項に関連しない限り意見書の提出は許されないところ、昭和三九年、昭和四四年、昭和四六年、昭和四七年、昭和五〇年、昭和五一年及び昭和五七年の各事業計画変更事項が本件道路に関わるものであると認めるに足りる証拠はなく、原告が第三次修正に際し提出した意見書が、第三次修正にかかる部分に対する意見ではないとの理由で審議会において採択されなかったこと既に認定のとおりであるから、被告の右主張は理由がない。
(三) 被告は、本件処分が修正事業計画の縦覧手続を欠缺して違法であるとしても、本件処分を取消すことにより多数の法律関係及び事実関係が覆滅され公益を著しく害することになり、他方、原告は、本件処分により建築基準法所定の接道義務を充足させて本件建物の南側に別の建物を新築しているのであり、なんら不利益を被っておらず、むしろ、本件処分を取り消されると、本件従前地が袋地になってしまうため、原告が換地上に居宅を建てることが困難になるから、行政事件訴訟法三一条により事情判決をすべきである旨主張するので考察する。
本件処分が取消され本件道路が廃止されると、原告はもちろんのこと、平井正次、金子則雄、庄司豊五郎の各借地が公道に面しない土地となってしまい、右借地人らは、本件道路による交通の便宜を失うばかりでなく、水道設備の配備場所、道路空間の日照、通風の便宜及び緊急時の避難路等までも失う結果を招くことになり、また、本件道路の存在を前提にして建物を所有し生活を営んでいる右借地人らのほか、右借地人らの建物に担保権を設定している者も本件道路の廃止により借地権の価格の低下等により担保不足を生じ困難な立場に追い込まれるおそれさえ予想される。
他方、原告は、本件処分により幅員四メートルの本件道路に面する借地を取得できたことになり、本件建物の南側に建物を新築することさえ可能になっているうえ、本件道路による交通、日照、通風の便宜を受けており、また、本件処分の取消により本件道路が廃止されこれに代わる道路が新設されたとしても、本件従前地の減歩率が低下する割合は僅かであると推測されるから、本件処分の取消による原告の実益は僅かなものというほかはない。さらに、原告自身が昭和三七年七月九日に提出した仮換地設計案に対する意見書において、本件道路の設置自体についてはなんら異議を述べておらず、むしろ、本件道路が本件従前地の西側にかかる割合を低くして本件従前地の減歩率を下げることを要望しているに過ぎないことを考慮すれば、本件処分を取消す実益は極めて少ないというべきである。
なお、原告は、修正事業計画が縦覧されていれば、本件道路の新設以外の方法で本件修正命令に沿って計画された蓋然性が高い旨主張する。
しかし、本件修正命令に沿うような事業計画は、本件道路の新設以外には本件従前地の西側を通らずに南私道の東端から南下して六一号街路に接続する街路を設ける以外には事実上考えられないところ、六〇号街路と六一号街路を南北に結ぶ街路の建設を計画した当初計画案が住民の反対で廃止された経緯に徴するなら、原告主張のような蓋然性は極めて乏しいものといわざるを得ない。
また、原告は、本件道路が五八号街路と六〇号街路を鍵型に結ぶだけの価値しかなく、これによって五六、五七ブロックが不自然に分断され都市計画道路として相応しくなく、公益上も必要がない旨主張するが、右判示のとおり、本件道路によって、原告を含む四名の借地人が公道に面した借地を取得でき、その結果、本件道路の交通の便宜及び道路空間がもたらす日照、通風の便宜を受け、居住環境が著しく向上したのであるから、公益上必要がないなどというべきものではなく、また、本件道路が都市計画道路として不自然な形状であることは否定できないものの、その原因は、当初計画案にあった六〇号街路と六一号街路を結ぶ街路の建設が住民の反対によって廃止されたからであり、本来は当初計画案の街路を設けることにより都市計画道路に相応しい街路ができたはずなのであって、原告を含む住民の意向に従って本件道路が原告主張のような形状となったのであるから、これをもって、価値が低く公益上も必要がないということはできない。
さらに、原告は、本件処分が取り消されても、原告の借地が回復されるだけで特に第三者に及ぼす影響は少なく、また、本件道路の廃止が付近住民の総意にも沿うものであり、さらに、被告自身が縦覧手続の欠缺に気づきながらも違法な状態のまま手続を強行してきたのであるから、事情判決を行う余地はない旨主張する。
しかし、本件処分の取消は、原告から建物の立退料等の返還を受け、原告の借地を本件従前地に回復するのみならず、新たに事業計画、換地設計の立案まで行わなければならず、殊に本件道路の廃止を行うのであれば、それに代わる街路を設け又は袋地となる借地については専用道路を設ける換地設計を行わなければならず、さらに、保留地の減少又は換地の減歩率が異なることになれば当然に精算金の算定も遣り直しを迫られるのであって、その影響は甚大なものである。そして、本件区画整理事業が終了して六年も経過した現在となって、本件処分を取消し、本件道路を廃止し新たな換地処分を受けて建物を再び移動させ精算金を返還又は追加支払いしてまで、換地手続を遣り直させることが付近住民の総意に合致するものであるとは到底考え難い。さらに、被告が修正事業計画を縦覧しなかったことに問題があることを知っていたにしても、被告は神奈川県からの指導も受けたうえ、政令四条一項二号の解釈上の見解から縦覧手続を不要と判断して手続を続行してきたのであるから、そのことを理由に公益に著しく反し、取消を求める原告にとっても僅かな実益しかない本件処分の取消について、事情判決を行うことを否定する理由とすることはできない。
(四) 以上のとおり、本件処分は、修正事業計画が縦覧されないまま行われた瑕疵を承継しているから違法というべきであるが、本件処分の取消は公益に重大な障害を与え、他方、原告の主観においてはともかく、客観的に評価するとさしたる実益のないものというべきであるから、行政事件訴訟法三一条を適用して棄却する。
4 換地方法の違法性
原告は、①被告が地主の地積訂正申告により借地に縄延びがあることを知りながら、職権で借地の実測地積を査定することなく原告の申告面積に基づいてその換地基準地積を定めたこと、②被告が本件差積を現況私道と誤認し、換地照応原則に反して地主自用地として換地したこと、③被告が本件全体土地すべてに土地台帳地積の四パーセント以上の縄延びがあると判断し、条例に反して各筆ごとの縄延び率を算定しないまま本件全体土地の面積から土地台帳地積の四パーセントを控除して換地基準地積を決定したことがそれぞれ違法である旨主張するので、前記2項認定の事実を前提にして判断する。
(一) 原告は、被告が職権で借地の実測地積を査定することなく原告の申告面積に基づいて本件従前地の換地基準地積を決定したことが違法である旨主張するのでその点について考察する。
本件区画整理事業においては、条例一九条三項により借地権者が申告した借地面積に基づいて借地の換地基準地積が定められ、客観的借地面積を前提とするものであるから、土地台帳地積により換地基準地積を定める土地所有者の場合と異なり土地台帳地積と実測面積とが相違する場合における申告面積の訂正申立等の手続保障を行う必要はない。
そして、原告は被告に対し、自ら本件従前地が674.38平方メートルであると借地権の申告を行い、被告は右申告面積を換地基準地積としたのであるから、被告の換地基準地積決定にはなんら違法な点はないというべきである。
もっとも、原告は、被告に対する借地権申告書の提出により換地基準地積が決定されることを知らず、被告の誘導に従って借地権申告した旨主張し、原告本人尋問の結集中には右主張に沿う趣旨の供述があるが、被告は本件区画整理事業の施行区域の関係者に対し、全体の説明会、町内ごとの説明会をそれぞれ開催し、かつ、「藤沢駅前南部地区土地区画整理区域内の土地台帳地積の訂正申告及び諸権利に関する異動の届出について(通知)」と題する文書を配布し、さらに、土地所有者を通じて借地人に借地権申告の周知依頼まで行っているのであり、そのうえ、本件全体土地は、永井一家三名が所有し、これを一八名の借地人に筆境とは無関係に賃貸していたという特殊な状況にあり、本件全体土地の各借地人がそれぞれの借地に対応する土地の地番と面積を特定できなかったため、永井一家の者が被告の職員に借地権申告のために各借地ごとの振り分け一覧表を作成して貰い、これに基づいて各借地人が借地権の申告を行なったという事情を考慮すると、原告が自己の借地権申告書の提出に基づいてその後の換地手続が進められることの認識を有していたことは容易に推認されるのであって、原告の右主張は失当である。
また、原告は、永井一家が本件全体土地の地積訂正をしたことにより、被告は本件全体土地に縄延びがあることが分かったのであるから、本件全体土地の各借地面積を査定するか又は底地面積に借地面積を合わせるかすべきである旨主張するが、各借地人が地主と連署したうえ地主と合意した賃借面積を借地権申告書に記載して申告しているにもかかわらず、被告が本件全体土地の土地台帳地積以上に実測地積があると知ったという理由だけで、各借地人と地主との私法上の関係に影響を与える借地権面積の査定をしなければならないとする法的根拠は全くなく(条例一九条三項は、申告にかかる借地面積が土地台帳地積と符合しない場合に市長が査定し、その査定地積を換地基準地積とする旨定めるもので、適用のないことが明らかである。)、また、借地の場合には申告地積をもって換地基準地積としているのである(土地区画整理法八五条一項、条例一九条三項)から、底地面積と借地面積を一致させる必要があるとも考え難いうえ、永井一家の地積訂正申立は一筆ごとになされたわけではなく、朝吉、ムメ及び基司が本件全体土地内の各所有地全体について一括して地積訂正したものであり、本件従前地の実測面積が借地権申告地積と相違しているか否かも不明なのであって、右主張は失当というべきである。
もっとも、条例一九条三項は、申告又は届け出た面積が土地台帳地積と符合しない場合には市長の査定した地積を換地基準地積とする旨規定しているところ、本件全体土地の合計土地台帳地積が5510.58平方メートルであるのに対して、借地権者の申告した合計借地面積は5373.33平方メートル、私道部分の実測面積は346.89平方メートルであるから、結局土地台帳地積の方が209.65平方メートル少なくなり、市長の査定地積により換地基準地積を決定しなければならないかのようである。
しかし、本件全体土地は、永井一家三名が所有している一四筆に及ぶ土地であるところ、各筆境とは無関係に一八名に及ぶ借地人に賃貸されていたため、各借地人の借地を地番によって特定することが困難であり、そこで、被告が各借地人の賃借面積、公図、現況図により各借地人の各借地を地番により特定した振り分け一覧表を作成し、これに基づいて借地権申告させた経緯からすれば、被告が本件全体土地の各筆の境界を決定したうえ各筆の実測面積を算定し、しかも、数筆に及ぶ土地の一部分に過ぎない各借地部分の面積を査定することは極めて困難であり、このような不可能ともいうべき作業を行って各借地及び私道部分の地積を査定しなければならないとすることは著しく疑問であり、しかも、本件全体土地としては、土地台帳地積と申告借地面積及び実測私道面積との差積が僅か3.8パーセントに過ぎないことからしても、市長の査定が必要な場合に該当するとはいい難いというべきなのである。
また、永井一家は、本件全体土地の面積について被告に地積訂正の申告を行い、土地台帳地積よりも423.2平方メートル広い5933.77平方メートルとし、被告もこれを認めて本件全体土地の実測面積を右申告にかかる面積としたうえ、原告を含む本件全体土地の借地人らが地主と連署して申告した申告面積をそのまま換地基準地積としているのであるから、仮に条例一九条三項に反するとしても、原告には不利益がなく右主張の違法はない。
したがって、被告が原告の提出した借地権申告書記載の面積を換地基準地積としたことには違法がない。
(二) 原告は、被告が本件差積を現況私道と誤認し、換地照応の原則に反して地主自用地として換地し、その結果、本件差積に含まれていた本件従前地の縄延び面積が地主に更地として換地されてしまった旨主張するので、その点について考察する。
被告が本件差積を本件私道部分と誤認したと認めるに足る証拠はなく、むしろ、本件全体土地の中には本件私道部分346.89平方メートルが含まれており、本件全体土地の借地人らからは本件私道部分の借地権申告がなかったのであるから、本件私道部分が地主自用地であるとして換地基準地積を339.91平方メートルと定めて永井一家に換地したことを違法とする理由はなく、原告の右主張は失当というべきである。
もっとも、被告は、本件全体土地の実測面積から土地台帳地積の四パーセントを控除した5713.33平方メートルから借地権申告のあった5373.45平方メートルを控除し、その残面積339.91平方メートルを私道の換地基準地積としたのであるが、前記説示のとおり、本件全体土地の各筆の境界、借地境が不明であるうえ、三名が所有し一八人に及ぶ者に賃貸しているという特殊性に鑑みれば、本件全体土地のうち借地権の対象となっていない私道部分(地主自用地)の換地基準地積算定方法としては合理的なものというべきである。
また、原告は、私道部分の換地基準地積339.91平方メートルには借地部分の縄延び部分の面積が含まれている旨主張するが、これを認める証拠がないばかりでなく、本件私道の実測面積は346.89平方メートルであるから右換地基準地積よりも広いのであって、右主張が失当であることはいうまでもない。
したがって、私道部分の換地が違法である旨の原告の右主張は失当である。
(三) 原告は、被告が条例一九条六項に反して本件全体土地について土地台帳地積の四パーセントを超える縄延びがあるとして、本件全体土地の実測面積から土地台帳地積の四パーセントを控除して換地基準地積を決定したため、本件従前地の換地基準地積を不当に少なくさせられた旨主張する。
しかし、前記説示のとおり、被告は、本件従前地の換地基準地積を原告の申告した借地面積によって決定しているのであり、永井一家(所有者)に対する本件全体土地の換地基準地積決定方法が原告に影響することはないのであるから、原告が違法をいうべき筋合いではない。
さらに、条例一九条五項は、所有者が実測図を添付して土地台帳地積の訂正申告ができ、この場合に同一人又は家族の所有宅地が連けいするときは、その全部について申告しなければならない旨規定し、同条六項は、右五項の規定を受けて、「前項の場合において、土地台帳地積と査定地積との差が一〇〇分の四をこえるときは、土地台帳地積にそのこえる地積を加算した地積により」換地基準地積を決定すると規定しているのであり、家族の所有土地が連けいする場合、一筆ごとに実測面積と土地台帳地積との差積が土地台帳地積の四パーセント以上あることを確認する必要があると解することはできず、むしろ、同一人又は家族の所有土地が連けいし境界が不明であるが、実測面積が土地台帳地積よりも広い場合には二筆以上の土地の地積を合算して地積訂正を可能にし、合理的換地を行おうとしたものと解されるのである。そして、本件全体土地は、同一住所に居住する家族である永井一家三名の所有であり、本件全体土地のうち各所有地ごとの合計実測面積をもって地積訂正申告してきたものの、朝吉、ムメ及び基司の各所有地はいずれも実測面積が土地台帳地積の四パーセント以上広いのであるから、本件全体土地について土地台帳地積の四パーセントを控除して換地基準地積を決めたことが違法とはいえない。
したがって、原告の右主張は失当というべきである。
三以上のとおり、本件処分は縦覧手続を欠缺した点において違法であるものの、原告のその余の主張にかかる違法事由はない。
よって、本件処分は縦覧手続を欠缺した点において違法であるが、行政事件訴訟法三一条により本訴請求を棄却することとし、同法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官川上正俊 裁判官宮岡章 裁判官西田育代司)
別紙
別紙
別紙
別紙物件目録
A 神奈川県藤沢市鵠沼字砥上二二一九番二
宅地 429.75平方メートル
B 神奈川県藤沢市鵠沼字砥上二二二一番一
宅地 1104.13平方メートル
C 右A、B両土地のうち、別紙図面三表示の、、、、、、、、、の各点を順次直線で結んで囲まれた部分690.39平方メートル(図面計測地積)
別紙処分の内容
原告が借地権を有する左記一1記載の土地を左記二1記載の土地に、左記一2記載の土地を左記二2記載の土地にそれぞれ換地する。
一1 神奈川県藤沢市鵠沼字砥上二二一九番二
宅地 429.75平方メートル
所有者 永井ムメ
右土地のうち119.01平方メートル
2 神奈川県藤沢市鵠沼字砥上二二二一番一
宅地 1104.13平方メートル登記
所有者 永井基司
右土地のうち553.37平方メートル
二1 神奈川県藤沢市鵠沼橘一丁目一六番二一
宅地 119.24平方メートル
右土地のうち別紙図面三表示の、、、、の各点を順次直線で結んで囲まれた部分99.34平方メートル
2 神奈川県藤沢市鵠沼橘一丁目一六番二二
宅地 465.58平方メートル